2011年9月17日土曜日

イタイイタイ病とセシウム汚染土壌の違い

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福島県の放射性セシウムに汚染された土壌の除染に関連し、イタイイタイ病のカドミウム要因も科学的に不明だと言う指摘があった。土壌汚染と言う面では似た事象ではあるが、確認されている科学的な事実の水準と状況は大きく異なるので指摘したい。

まず、イタイイタイ病(慢性カドミウム中毒)と、チェルノブイリ(放射性セシウムによる低レベル長期被曝)は状況が全く異なる。前者は存在が確認された問題で、後者は被害を確認できていない状況だ。次に、除染技術は進歩しており、イタイイタイ病のときの除染活動の費用計算から、そのまま福島の除染費用を計算する事もできない。

汚染レベルが高い地域の放射性セシウムの除染は、イタイイタイ病の経験と関係なく必要で、両者を関連付けた議論は意味が無い。イタイイタイ病のレベルの健康被害が放射性セシウムに確認されていたら、もっと状況は深刻に捉えられている。

1. イタイイタイ病は存在するが、放射性セシウムの被害は未確認

イタイイタイ病の存在は確実で、骨軟化症と多発性近位尿細管機能異常症による健康被害だと考えられている。当時の富山県婦中町では、他の地域と比較して極めて発生頻度が高かった。

チェルノブイリ後の低レベル放射能汚染地域での異常、例えば奇形児の発生や、放射性ヨウ素起因の甲状腺ガン以外の発ガン性の上昇は、未だに確認されていない(金子(2007))。チェルノブイリでは、55万ベクレル以上の「強制移住地域」でも19万人強の人間が居住を続けていた。しかし、山下俊一長崎大教授によると、セシウムが筋肉に蓄積される事から肉腫の増加が危惧されたのだが、影響が出る前に対外に排出されるためか杞憂に終わったらしい。近年の研究では、前癌症状が観察できるか否かなど、病状が発生する以前に焦点が移っているようだ。

イタイイタイ病は、存在する病気と、存在する物質をつないでいる。低レベル放射能汚染の健康被害は、存在が不明な病気と、存在する物質をつなごうとしている。この差はかなり大きい。

2. イタイイタイ病のカドミウム要因説は極めて有力

イタイイタイ病は存在する。富山県婦中町と他の地域との違いが調査された上で、カドミウムが見出され、裁判所は因果関係を認定した。ところがカドミウムの人体影響については、不明な点も多い。

環境庁が野見山一生自治医科大教授らの研究グループに依頼した昭和51年12月のサーベイ調査では、「カドミウムだけでイタイイタイ病の発生を十分には説明できないことも事実であり、一方、他の因子だけでで矛盾なくイタイイタイ病発生の時期的、地域的、年齢的な特徴を説明することも困難」としている(昭和52年環境白書)。つまり、カドミウム投与の動物実験で、『定型的』なイタイイタイ病の再現ができていない事が問題となっている。

ただし、動物実験によるカドミウムとイタイイタイ病の関係は、『定型的』には確認されている。岡山大学の小林純教授らが、米国NIHからの助成金による動物実験を行い、カドミウムが腎臓に障害を及ぼし、カルシウムの排出を促進することが確認されている(間正(2004))。

病理学的な構造が解明されていないのは事実であろう。しかし、環境中のカドミウムの作用無しではイタイイタイ病が発生しなかったのは、コンセンサスが取れている事実と言って良い。

3. 除染技術は進歩しており、イタイイタイ病の時代と異なる

広く報道されていたので注目した人も多いが、産総研の低濃度の酸とプルシアンブルーによるセシウム回収技術など、除染技術は色々とあるようだ。技術的には突然出てきたものではなく、カドミウム含有土壌からのカドミウム回収方法と良く似ている(47NEWS)。土壌を入れ替えるとコストが高くつくため、カドミウムの除染方法は研究されてきている。どうやら過去の公害問題が、福島の除染費用を押し下げてくれるようだ。

4. 放射性セシウムの除染は必要

放射性セシウムにカドミウムほどの危険性は無いと主張してきたわけだが、放射性セシウムの除染は、それとは別に必要だ。理由は簡単で、ICRPの基準でも、居住を許可できない地域がある。最も緩い100mSv/y基準でも高レベルの汚染地域はかなりの面積であるのは揺るぎの無い事実で、そこは居住を諦めるか、除染をする必要がある。つまり汚染レベルが高い地域の放射性セシウムの除染はイタイイタイ病の経験と関係なく必要で、両者を関連付けた議論は意味が無い。

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