2010年11月5日金曜日

中国漁船衝突問題の映像流出で困るのは菅内閣

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2010年11月5日は、内部告発記念日になりそうだ。尖閣諸島沖・中国漁船衝突問題の衝突シーンのビデオ映像が流出した件を、メディアが大きく報じており、関係各所に動揺が広がっている。しかし、特に打撃が大きいのは、やはり与党・民主党の菅内閣であろう。中国人船長を不起訴とした那覇地検の鈴木亨次席検事が国会に証人喚問されるか、検察官適格審査会にかけられる可能性があり、政治的関与が明らかになる可能性が出てきた。

1. 中国政府は静観

仙石官房長官が日中関係に影響があると言っていたが、外交ルートで関心と憂慮を伝えて来ただけで、中国政府の対応は落ち着いている(時事ドットコム)。

中国側は強い情報統制により報道を規制する事ができる。実際、香港のニュース番組が流した映像がポータルサイト『酷6網』に掲載されていたが、数時間後には自主規制か中国政府の圧力により削除されたようだ(asahi.com)。

しかし、報道規制も不必要なのかも知れない。中国側からすれば、日本政府が尖閣諸島で司法権を働かせた事が問題であり、漁船の違法行為の程度は瑣末的な問題だからだ(日テレNEWS24)。初期の中国政府の発表とは食い違う事実になるが、日本の巡視船に体当たりをした勇敢な漁民を賞賛している声もあり、またビデオ映像そのものが捏造だと指摘する人もいるようで、問題とはならないようだ。

2. 自民党ら野党は政府批判

現時点の自民党は、石原伸晃幹事長らはビデオ流出が発生した管理体制を批判しているように思える。田村憲久衆院議員も「政府の情報管理のずさんさが浮き彫りになり、国会で追及する」としている(読売新聞)。

ただし、全面公開を求めていた議員らは、情報漏洩に対する批判のトーンは低い。限定公開で映像を見ていた武部勤衆院議員は那覇地検の対応を批判していたし、礒崎陽輔参院議員は編集前のビデオを見る必要があると指摘していた。屋毅衆院議員は「捜査情報が流出したのは、どなたかの正義感によるもの」と述べており、情報漏洩者に好意的である。石原慎太郎都知事も「結構ですね。これは内部告発。みんな知りたいこと」とコメントを出している。

3. 海上保安庁は表向き困惑

youtubeで漏洩したビデオの編集程度から、海上保安庁で流出したと指摘されているが、海上保安庁は戸惑いを隠せないようだ。ある幹部は「うちから流出したとは考えたくない。犯人捜しのようなことはしたくない」と述べていると報じられている(産経ニュース)。

ただし、海上保安庁の職員は公務執行妨害と違法操業で船長を検察に送検した後に、検察が不起訴を決定したことで失望を隠せなかったと言われ、今回の流出を歓迎している職員が存在してもおかしくない。

4. 与党・民主党は法的対応を検討

内部統制上の問題があがっており、国家公務員法及び機密保守義務違反で内部犯行者を捜査するとしている(Bloomberg)。しかし、捜査は可能であろうが、犯人につながる証拠があるかは分からない。そして、この手の情報漏洩の防止はさらに難しい。政治的確信犯を制度的に統制するのは不可能だ。

5. 国民として本当に求めるべきこと

素人目にも故意に中国漁船が巡視船にぶつけたのは明らかだ。専門家の分析もそれを支持している(産経ニュース)。一方で実態が不明であったため、政府対応に疑問があっても情報不足で議論が進まなかった。これを機会に、今までの関係各所の事件への対応が適切であったかは追求するべきだ。

1. 那覇地検の鈴木亨次席検事の証人喚問
まず、仙石官房長官が“自主的に不起訴を判断した”とする那覇地検の鈴木亨次席検事への追求が必要になる。交通違反者がパトカーに体当たりして逃走した場合に不起訴になったケースは聞いたことが無い。尖閣諸島に近い石垣島の住人も困惑している(毎日jp)。明らかに起訴相当の犯罪行為を見逃したのだから、国会の証人喚問か、検察官適格審査会で地検に経緯を説明させるべきであろう。政府から圧力があったと証言があれば、司法の独立性が侵されていた事になる。
2. ビデオの全面公開と、公開制限理由の追求
次に、内閣にビデオの全面公開を求め、ビデオ公開を制限してきた理由を追求する必要がある。民主党の仙谷官房長官は、刑事訴訟法では公判維持の都合上で公表しないとしていたが、不起訴処分で解放したので公判は行われていない(産経ニュース)。また中国政府にとって公開に問題は無いので、対中関係は理由にならないのは明らかになった。民主制度をとる日本では、国民の知る権利は重要だ。他に人権問題などに触れる事が無い限り、政府は情報公開をする義務がある。
3. 社民・福島氏ら中国漁船擁護者への追求
最後に、衝突ビデオを見ていながら、犯行を過小評価する発言である、社民党党首の福島瑞穂氏の「車が道路でちょっとコツンとぶつかるような、あてて逃げるという映像だ。」や、民主党の小林興起議員の「向こうが逃げまどって、当たっちゃったということだ。衝撃があるような当たり方じゃない。ぶつかる瞬間はカメラの位置からして見えない」の真意を問いただす必要があるであろう(産経ニュース)。流出ビデオの内容とかけ離れた表現であるため、福島氏や小林氏が、国民の代理として政府を監視する能力があるのか、疑問を持たざるをえない。

司法の独立性や国民の知る権利は、民主制度国家としての日本の体制の要だ。これらの権利を蔑ろにしていると、日本の国政が健全性を失う可能性がある。国民やマスコミは、衝突ビデオの漏洩に満足することなく、那覇地検や仙谷官房長官の判断を追求していくべきであろう。

1 コメント:

Unknown さんのコメント...

検察が「自主的に判断し」容疑者を不起訴にしたことを容認する政府ならば、海上保安官が「自主的に判断し」映像を広く公開したことをどの政府が咎められるのだろうか?

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