2010年10月5日火曜日

TOEIC批判について考える

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日本と韓国では、世界の他の地域と違って、TOEICの影響力が大きい。受験者の8割が日韓で占められているぐらいだ。近年は、大手企業の人事評価や、大学で単位認定に取り入れられるなど、その影響力が増してきている。しかしながら、TOEICには色々と批判が多い。

1. 日向清人氏のTOEIC批判

ビジネス英語の教育者として第一人者のうちの一人、日向清人氏がTOEIC批判を以前からしている。批判は妥当なのだが量が多いので、ポイントとなる部分を短くまとめてみた。正確な内容が知りたい人は、ぜひ日向氏のBLOGのTOEIC関連の記事を参照して欲しい。日向氏の批判は実例やデータなどの情報が豊富で興味深い。

1. 高スコアの受験者の英語運用能力が高いと言えない
800点を超える高スコアの人でも英語運用能力が低いケースが多数あり、特にスピーキングとライティングで顕著であるそうだ。例えば、英語で電話の応対もできない人がいるらしい。
2. 総合的な英語運用能力の測定効果が低い
TOEIC試験はリスニングとリーディングに限られる。スピーキングとライティングを測らないので、総合的な英語力を測定しているとは言えない。
3. 必要とされる語彙が狭い
TOEICに必要とされる語彙は、5歳児レベルの3,714単語の語彙でしかないそうだ(TOEICは3,714語レベル)。
4. 試験テクニックでスコアが伸びる
TOEIC対策で、出題傾向や問題の癖を学習すると、英語運用能力の向上無しにスコアが大きく伸びてしまう。リスニングとリーディングに限っても、妥当なスコアかが分からない。
5. TOEICのスコアの信頼性が低い
スコアの導出手順が公開されていないので、スコアの信頼性に疑問が残る。また、少ない公開情報からは集団参照基準でスコアを出している事が分かっており、どちらかと言うと相対評価で、受験者の英語力が同じでも他の受験者の英語力でスコアが変化してしまう問題がある(TOEICは絶対評価なのか相対評価なのか:TOEIC界の権威は絶対評価説)。
6. もっとまともなテストがある
英語圏への留学の選考基準としては、TOEFLIELTSの二つがある。リスニング、スピーキング、リーディング、ライティングを試験するので、TOEICよりは正しく英語運用能力を評価できる。実際、この二つは欧米の大学で入学条件として使われるが、TOEICは相手にされていない。また、TOEICと同様にリスニングとリーディングを試験するテストとしては、G-TELPの方が採点方法は妥当。
7. 主催団体が疑わしい
主催しているIIBCは非営利団体だ。しかし、2009年2月に経済産業省に受験料を下げるように指導されたり、(2010年7月に国税局にICS社を使った利益隠しを指摘されたり(時事ドットコム)、やや問題が多い団体である。公開テストの主催者には、もっと公共性があるべきかも知れない。

日向氏は「念のため申しあげると、別段、私は TOEIC がよくないと言っているわけではありません。」と記述しているが、批判の舌鋒は強烈だ。

2. 日向清人氏のTOEIC批判への批判

氏の主張の要点はTOEICのスコアが英語運用能力を表さないと言う事で、英語教育の専門家だけに、疑念の余地がほとんど無い。

ただし、スコアの導出方法に関しては、長期的に受験者に入れ替わりがあるので、複数回の試験を通じた受験者全体の英語運用能力は安定的であろうから、結果的に絶対評価に近いスコアになると思われる(逆に言うと全く同じ受験者たちが繰り返し受験をしていたら、TOEICのスコアの計算方法は破綻する。)。分布も概ね対照的であり、受験者同士が習熟して点数が詰まっているようには思えない。TOEICスコアは、何かの能力を測る安定基準だと見なして良いであろう。

3. TOEICは英語運用能力試験では廉価な部類に入る

TOEICが人気の最大の理由は価格であろう。現時点での受験料が、TOEICは5,985円、TOEFLは$200(約17,000円)、IELTSは24,675円。普段、英語を使う機会の無く、今後も英語を使う予定の無い人が、気軽に英語力を測定する価格ではないのであろう。英検1級は7,500円だが、スコアが出ないので効果測定には使いづらい。

ひとたび受験者数が大きくなると、知名度が高くなるので、雪だるま式に関連商品やサービスが出てくるので、さらに気軽に受けられるようになる。就職時も知名度のある資格なら、一応の評価はしてくれる。

4. TOEICスコアは、TOEIC対策をしたことのない受験者の英語運用能力は表す

受験者がリスニング、スピーキング、リーディング、ライティングを満遍なく学習していれば、リスニングとリーディングの点数は、スピーキングとライティングの点数に比例するはずだ。TOEICテストの設計者は、リスニングとリーディングの点数と、スピーキングとライティングの点数の相関を確認したそうだ。

しかし、これはTOEFLのスコアを元にしたもので、TOEICが存在する以前の話で、TOEIC対策は立てられていない。現状では無数に試験対策本が出回っており、TOEIC対策の授業もあるので、TOEICテストはその前提が崩壊しているのである。

ところで次の条件を満たせば、TOEICは個人的な学習効果の測定には使える可能性がある。まず、TOEIC用の参考書やテキストを見ない。次に、スピーキングやライティングの学習も同時に行う。最後に連続して受験しない。母数も多く廉価な試験なので、注意すれば効果測定には使える。

5. 入試や採用人事では、英語学習意欲の基準として使えるかも知れない

もちろん、英語運用能力の評価としては不適当。しかし、何かの採用時に英語学習意欲を測る基準としては、安上がりで評価できるのかも知れない。英語ができないTOEIC高得点者と低得点者の二人がいて、二人とも「英語、頑張ります」と言っているときに、どちらを採用したいかという問題だ。TOEICは同種の試験の中では、廉価な方ではある。

6. 企業人事の評価基準としてTOEICは不適当

社内の配属人事の評価基準としては、TOEICは使わない方が良いであろう。比較的フォーマルな研究によると「TOEICのスコアとコミュニケーション能力との間に相関関係はなく、また、スコアの上昇とコミュニケーション能力の向上との間でも相関関係は認められない。」「TOEICの低スコアが低いコミュニケーション能力を物語るわけでもない。」とある(TOEICで英語教育の効果を測定できるのか:教育再生懇の中間報告に疑問)。TOEICの代わりに、TOEFLやIELTSで評価する方が妥当だ。

7. TOEICの欠点理解はされている

TOEICスコアが高いのに、英語運用能力が低い人は多々いるので、実用性は低いと理解はされている。英語教育の関係者は、営業的な理由で否定的な話はできないであろうが、他に何か廉価で妥当な試験があれば、そちらへ飛びつくであろう。ただし、今のところは費用面で代替できるものがない。

結果として何となく英語を勉強している人はTOEICを、目的をもって英語を勉強している人はTOEFLやIELTSを受験することになるのであろう。もちろん日向氏の言うように、目的をもって英語を学習しないといけないはずの中学や高校の英語教員がTOEIC試験に偏向することは、問題がある。

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