2010年10月22日金曜日

中国のレアアース輸出規制を一方的に非難していい理由

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投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツでLLCマネージング・ディレクターの広瀬隆雄氏が、レアアース(希土類)の価格には採掘にまつわる環境汚染コストが上乗せされていないので、突然の輸出規制に関して一方的に中国を非難するのは偽善的だと言っている(Market Hack)。しかし、環境経済学の常識から考えると、広瀬氏の主張は妥当とは言えないように感じる。

1. レアアース採掘の環境負荷は高い

確かに中国政府が主張するように、レアアース採掘の環境負荷は高い。

鉄鉱石は約70%の酸化鉄の含有量があるが、花崗岩に含まれる希土類は中程度の含有量で36~339ppm(0.000036%~0.000339%)と、廃棄物の方が圧倒的に多い。また、抽出・分離には主に溶媒抽出法が用いられているが、劣化した抽出剤を完全焼却できず腐食性残渣を残してしまうため、希土類の採掘・精製は環境負荷が大きい。さらに、ほとんどのレアアース鉱床にはトリウムなどの放射性物質が含まれ、放射性物質とその廃棄物の処理には通常よりもコストがかかるとされる。

2. 中国のレアアースの生産量シェアは近年急激に増加

1984年にはほぼ0%であった中国のレアアースの生産量シェアは、2009年には90%を超える水準に達している。これは、露天掘りが可能な鉱山と、安い人件費、低い環境基準が理由で、低価格でレアアースを輸出できたことが理由だ。中国が提示する低価格に耐えられない、世界の他の鉱山は閉鎖・生産縮小に追い込まれている。つまり、中国にはレアアースの価格支配力がある。

3. 価格に環境コストの上乗せをするのが教科書的な政策

理解できないのは、輸出制限、つまり生産量の制限を行う事だ。

希土類が適切な価格でないのであれば、 政府が環境コストを生産者に上乗せすれば、環境経済学のコースの定理により社会的厚生は最大になる。価格があがれば需要も減るので、生産量も削減される。中国のレアアースは国際市場で価格支配力があるので、価格は規制を強化したり、環境税をかけたりすることで、容易に引きあげることができる。

つまり、市場の失敗によって環境負荷が価格に反映されていないのであれば、政府規制で価格を操作するのが一般的で、中国にはそれができるように思える。

4. なぜ輸出量削減を選択したのか?

タイミング的には外交的圧力が理由だろうが、2010年9月の尖閣諸島沖事件以前の、2005年から関税や輸出割り当てで希土類の輸出量を削減してきたため、他にも大きな理由が考えられる。

まず、環境コストを中国国内の需要者に転嫁したくなかった事が考えられる。中国での生産コストを抑えることで、投資を拡大し成長を維持する政策の一部かも知れない。国内のクリーンエネルギーやハイテクセクターの発展を促すため多くの資源を確保することが目的との報道もある(Reuters)。ただ、生産コストにおける希土類の割合は微々たるものなので、根拠としては説得力を欠く。

次に、採掘現場・精製会社を中国政府が制御できていない可能性がある。少なくとも、違法な採掘は横行しており、江西省のレアアース精錬企業が調達した正規な採掘ルートの原料は20%以下だと考えられている(レコード・チャイナ)。港湾施設の監視でできる輸出規制は、中国政府にも容易な規制なのかも知れない。

5. レアアース輸出規制を一方的に非難していい理由

以上の通り、ありそうな理由は三つ考えられる。一つは外交、一つは国内産業の保護、一つは統治能力の低さだ。環境保護が理由だとは考えられない。

外交的な理由や国内産業の保護が目的であればWTO違反になる可能性が高いので、一方的に非難していい。中国の統治能力の問題であれば、むしろ環境保護の観点から制度上の欠陥を叩くべきだ。世界第2位の経済大国であるのだから、資源保護も適切に行う義務はあるだろう。

つまり、どれが理由であろうとも、中国を一方的に非難しても独善的では無いはずだ。

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