2010年9月12日日曜日

貧乏人は死ぬしかない?抗がん剤の進歩と医療費負担の高騰

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ここ10年間は抗がん剤の進歩が早く、昔ほどは抗がん剤の『効果』が無いと言う事は減ってきているようだ。その一方で、進歩した抗がん剤が、生かさず殺さずの患者に高額の医療費を負担させている状態が発生しており、社会問題にもなっている。偽科学に関係ないせいか、ネットでは大きな話題になっていないように感じるが、政策的な争点にもなりそうなので、短く状況をまとめてみた。

1. 第2世代の抗がん剤、分子標的薬が利用されている

21世紀になって分子標的薬と呼ばれる抗癌剤が出てきた。既に日本でも10種類以上の分子標的薬が使われている(がんサポート情報センター)。

これは、がんの進行を助けるたんぱく質の働きを阻害する(小分子化合物)か、それらの抗体として働き免疫機構に排除させる(モノクローナル抗体)ことで、がんの増殖を抑制する。なお、以前に紹介したRNAi治療と似ているが、分子標的薬はたんぱく質の生産自体は停止できない。

2. 分子標的薬は延命効果があるが、完治はしない

全てのガンに有効な分子標的薬があるわけではないが、既に承認された薬の延命効果は確かだ。

2001年に慢性骨髄性白血病のイマチニブが承認され、7年生存率が86%(従来は36%)と大きく改善した。2007年に承認されたベバシズマブ、2008年に承認されたセツキシマブによって、進行大腸がんでは30ヶ月以上(従来は12ヶ月)の平均生存期間中央値となっている(秋田大学医学部附属病院)。

ただし副作用は依然としてあるし、完治(寛解)するわけではなく、いつかはガン、場合によっては抗がん剤の副作用で死亡する。そして延命治療中は、ずっと薬剤投与が必要だ。

3. 高額な薬価を患者が負担できない

新薬全てに言えることだが、特許料があるため高額だ。特に患者数が少ない病気の場合は、開発費の回収が難しくなり、単価が高くなる(毎日jp)。

すぐに完治し薬が不要になるか、従来の末期がん患者のように、時間を置かずに死亡するのであれば、それでも大きな問題にはならない。しかし、最近の抗がん剤は長期に延命するので、数年間に渡る延命治療中に、高額の薬価を負担できない人が出てきている。

慢性骨髄性白血病で使われるイマチニブ(製品名グリベック)のケースだと、7割を健康保険で払ったとしても、年間に45~135万円の自己負担が必要になるとされる(Infoseek 内憂外患)。10年間で考えると、かなり大きな負担であり、30%の患者が治療を中断しているという報道もある(毎日jp)。

4. 延命治療のゾンビ患者は増加する

今後も分子標的薬の新薬は出てくるし、RNAi治療や、ウイルス療法、抗癌ワクチンなどの他のタイプの薬も出てくる。薬剤会社も商売なので、効果がある薬ほど、特許が有効な期間内は高値で売ろうとするのは間違いない。

製薬会社が間違って、もしくは大学の研究室等が頑張って、すぐに完治するような薬を作ってくれれば問題は全て解決するのだが、それはまだまだ先の話になりそうだ。延命治療に貢献する薬の増加にともなって、生かさず殺さずのゾンビ状態のがん患者の数は増加すると考えられる。

5. 健康保険料の引き上げの方向?

現状では、貧乏人には延命治療を諦めてもらうしかないようだ。そもそも被保険者の3割負担は、高額治療を諦めてもらい、医療費を減らす目的で設けられており、これは制度設計通りとも言える。

もちろん公的補助も、患者や医療関係者からは望まれており、健康保険負担を拡大するために健康保険料を引き上げるという選択もある。国立がんセンターの上昌広博士は慢性骨髄性白血病で15億円、他の疾患を入れても数百億円の支出増で済むと考えており、この程度であれば実現可能であろう。しかし、今後も延命効果の高い新薬が現われた場合は、この金額ではすまない。

近年の風潮と民主党のマニフェストからすると、後者が選択される気がするが、今のところ大きな政治的な議論にはなっていないようだ。

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