2010年9月26日日曜日

尖閣沖衝突事件に関連して知っておくべき10のこと

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連日の報道で、尖閣沖衝突事件について知らない人は少ないであろう。

2010年9月7日、尖閣諸島付近の日本の領海内で違法操業中の中国漁船を海上保安庁の巡視船が発見し、漁船の船長が公務執行妨害で逮捕された。漁船は逃走を試みて、巡視船に衝突を繰り返し、巡視船2隻を破損した。

その後、日本側は、船長以外の船員を帰国させ漁船を解放する一方で、船長を検察に送検をしたが、中国側は外交的圧力をかけ続けてきている。9月24日、米クリントン国務長官が尖閣諸島について「米国の日本防衛の義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用対象になる」との見解を表明。那覇地方検察庁が中国人船長を処分保留で釈放と発表し、翌日未明に中国のチャーター機で船長が中国へと送還された。これで事件は決着がつくように思えたのだが、中国側が謝罪を損害賠償を求めだしている。

中国側の強硬な姿勢が驚きをよんでいるのだが、世論では「日本は中国になめられている」との論調が多いので、状況を整理して分析してみた。

1. 尖閣諸島領有権問題とは?
事件が起きた尖閣諸島は、日本が実行支配してきたが、70年代より台湾・中国が領有権を主張している地域だ。特に近年は中国の海洋進出政策により、近海の海底ガス田開発などで日中間の緊張が高まっている。
双方が領有権を主張しているので、日本にとっては領海内を取り締まるのは当然だが、中国にとっては中国領海内で日本の司法権が働かくのが問題と言う事になるので、今回の尖閣沖衝突事件が国際問題に発展した。
2. 中国の海洋進出政策の狙いはエネルギー資源
中国が尖閣諸島、西沙諸島、南沙諸島の領有権を主張しだしたのは、1970年代だが、油田とガス田が発見されてからの事である。
また膨大な人口を抱える中国は、既にエネルギー消費量は日本を大きく上回っており、成長を維持するためにはエネルギー資源の確保が不可欠になっている。例えば原油を見ても、日本は48億バーレル/日の消費量だが、中国は78億バーレル/日の消費量だ。
3. 今まで尖閣諸島に関連して、中国人が送検された事は無かった
実は今回の事件は、日本側の対応が、異例になっている事実がある。2004年に尖閣諸島に不法上陸した中国人活動家7人は、送検されずに強制送還されている。
警察や海上保安庁が検察に証拠や犯人を引き渡すことを送検といい、証拠十分であれば検察が起訴を行う。送検・起訴されると、尖閣諸島が日本の司法権の範囲内だとアピールすることになる。このため、中国側は送検されたことに激しく反発していたと考えられる。
4. 日本の経済的損失は、まだ軽微
連日の報道で、中堅建設会社フジタの社員4名の逮捕や、レアアースの輸出停止の可能性や、中国人観光客の来日停止や、日中交流事業の停止などが報道されているが、日本経済に大きなな打撃を与えるものは余り無い。
中国でスパイ容疑で逮捕されるのは日常茶飯事だし、レアアースは短期的には備蓄があり、中期的には迂回輸入が可能で、長期的には代替物質か他の鉱山からの採掘が可能であろう(My Life After MIT Sloan)。
民間企業の中国の生産施設が接収されたり、日本製品の販売が禁止されたりすれば問題になるだろうが、世界の中国市場への信頼の問題もあるためか、今のところは話題にあがっていない。
5. 中国側に、経済的な利益はほとんど無い
日米安保の枠組みが存在する限り、西沙・南沙諸島のように軍事的な進行を行うのは難しい。よって、今回の事件で尖閣諸島を中国側が領有する見込みはゼロだ。また、領有したところでエネルギー資源という意味では、海底油田は強硬採掘に踏み切っている現状があり、大きな変化は無い。
6. 中国側にも、経済的な損失が予想される
中国政府がレアアースの輸出規制を継続するならば、中国企業も販売先を新たに開拓するコストを負う事になる。政府系企業なので文句は言わないであろうが、損失はある。
長期的には、中国不信が拡大すれば、海外直接投資の減少や、観光客の減少などが発生する可能性がある。製品開発能力が低く、外国企業への技術的依存度が高い中国経済には、大きなリスクになる。さらに、このまま関係が悪化すれば、日本からのODAや技術援助を打ち切られる可能性がある。
7. 中国側に、外交的な得点はほとんどない
インド、ベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシア等の周辺国は、中国と武力紛争が起きており、今回の事件で中国への危険性の認識がさらに高まった。これらの国と親密な関係を保っている米国との関係も悪化したと言えるであろう。
経済援助等を通じて東・東南アジアでの外交的なプレゼンスを高めているが、今回の事件で経済的関係を紛争解決の脅しに使う姿勢が明確になり、周辺国は中国の危険性を再認識することになった(ニューズウィーク日本版)。ラオスやミャンマーなどのごく一部の周辺国には影響力は行使できるであろうが、基本的に孤立しつつある。
8. 中国共産党より、中国世論の方が強硬
40年近く教育で洗脳されているため、中国人民の反日感情は強く、また尖閣諸島を中国国土だと強く信じている。ゆえに、少しでも中国政府が弱腰であると感じれば、政府不信につながりうる。
北京大学歴史学部の徐勇教授の「沖縄の主権帰属は未確定」という内容の論文や、日本の歴史学者である井上清氏の「釣魚島は古くから中国の領土」という内容の主張が話題になったが、中国メディアや中国人民は、基本的にこれらを信じていると捉えるべきだ。
9. なぜ事件が発生したのか?
共産党主導で行ったのか、人民解放軍主導で行ったのか、それとも漁民が勝手に領海侵犯したのかは、明確ではない。
挑発行為を行い日米の出方を確認したと思うかも知れないが、事件前の8月16日にクローリー米国務次官補は、過去の米政権同様、尖閣諸島は日米安全保障条約の適用対象になるとの認識を示しているため、その可能性は低い。日本政府の見解では、漁民の偶発的行動だと言う事になっている。
10. 中国政府が強硬な理由
当初は、2004年の小泉政権時の対応を狙ったのだと想像できる。現在でも強硬な最大の理由は、国内世論が強硬のため、安易に軟化すると国内の政治的安定を損なう可能性があるからだ。
他にも、菅政権の親米路線が明確になったので妥協しづらいこと、日本の強硬姿勢を許すと西沙・南沙諸島に波及しかねないとは思っているであろう。また、ポスト胡錦濤を巡って温家宝首相と習近平国家副主席で政治的な駆け引きがあり、温家宝首相も政治的なマイナス点を残すわけに行かず、強硬にならざるをえないことも考えられる(極東ブログ)。

中国政府が、経済的にも外交的にも得にならないことを続けているのは、国内世論が背景にある。事件発生後に、小泉政権時は強制退去で済んだので、国内世論を反日で煽って同様の処理を期待したところ、日本側が司法処理を進めたため、逆に国内世論が加熱し収まらなくなって困っているように思える。

しかし、日本と同様に中国と領海問題でつばぜり合いを繰り広げている韓国では、年間5,000人もの中国漁民を拘束しているそうだが大きな問題にはなっていない(ZAKZAK)。中国政府や、政府支配下の中国メディアが大きく取り上げなければ大問題にならなかったはずだが、読みを誤ったのだろう。自業自得とはいえ、やや気の毒だ。

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