2010年7月23日金曜日

バイオテクが作り出す、マラリアを駆逐する蚊、マラリアを媒介しない蚊

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日本では絶滅した病気になっているので身近ではないが、マラリアという病気がある。ハマダラカという蚊によって媒介されるマラリア原虫に寄生されることで発生する病気で、高熱や頭痛、吐き気などの症状を引き起こし、場合によっては死に至る。世界では年間に百万人以上の死亡者が出ているとされ、熱帯・亜熱帯地域に広く分布する病気だ。開発途上国では深刻な問題になっており、主要な感染症の一つになっている。

古くからマラリアの研究は注目されており、マラリア関係のノーベル生理学・医学賞は第2次世界大戦以前に3件ある。最近はバイオテクノロジーの発達に伴って、 ハマダラカ自体に細工をして、マラリアの流行を防ごうとする研究が行われているようだ。AFPによると、自治医科大学の研究チームは、 蚊の遺伝子を組み換えて「空飛ぶワクチン」化し、蚊が人を刺すことで逆にマラリアへの免疫を与える方法を研究している。Mail Onlineによると、アリゾナ大学のMichael Riehle教授は、遺伝的にマラリア原虫に抵抗力があるハマダラカを作り出し、マラリア原虫自体を根絶してしまう研究を行っているらしい。しかし、画期的な技術を待たない方がマラリア根絶に早いかも知れない。

日本では、第2次世界大戦後に急激に土着マラリアが減った。抗マラリア薬の普及もあると思うが、主に公衆衛生の改善によるものだ。つまり、蚊が発生しないように生活環境を改善したのだ。各地に記録が残っているようだが、ドブなどのハマダラカの幼虫が生育する場所を綺麗にしていく方法が有効なようだ。

上は国立感染症研究所感染症情報センターからの転載だが、1955年以降はほぼ絶滅しており、最近の僅かなマラリア患者の増加は、東南アジアやアフリヤ等から感染して帰国した人が多数を占めるようだ(国立感染症研究所感染症情報センター)。つまり、マラリアの駆逐に最新技術は必要とは限らない。

上は厚生労働省検閲所からの転載だが、世界のマラリア危険地域を見ても、熱帯・亜熱帯の開発途上国が多い。記録上はマラリアが存在したと思われるヨーロッパや、蚊の生育環境として適しているアメリカの南部は、マラリアの危険地域ではない。先進国で駆逐できていると言う事は、公衆衛生が重要だと言う事だ。

マラリアは蚊を完全に駆逐せずとも、その数を抑制することでほぼ完全に予防できる病気だ。かつて北里柴三郎は、感染症の治療に限界を感じて、感染症の予防に尽力し、日本では感染症が大幅に減ったと言われている。マラリアに苦しむ開発途上国に必要なのは、21世紀のバイオテクノロジーではなく、19世紀の北里柴三郎のような公衆衛生に取り組む人物なのではないであろうか。遺伝的に蚊を操作してマラリアを撲滅する作戦は、工学的には興味深い。しかし、マラリアの防止と言う面では、もっと現実的で効果的なことはたくさんあるはずだ。

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