2010年7月11日日曜日

所得格差と、地域格差と、世代間格差

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日本は格差社会になったと言われているが、実はほとんど論点が噛み合わない政策的な議論を見かける事があるように感じる。論者それぞれで認識している格差が別のものであるときがあるのだ。実際問題、最近の見かける格差は、3種類ある。所得格差と、地域格差と、世代間格差だ。また最近になって、これら三つの格差が拡大したと言われているが、論者によっては現状認識がまちまちのように思える。三種類の格差が混同されていており、しかも現状認識が甘いためだと思われるので、これらの格差を整理してみたい。

1. 所得格差

所得格差は拡大する傾向が見られる。平成16年全国消費実態調査によると、所得格差を表すジニ係数(0が格差なし、1が格差最大)は継続的に上昇している。平成21年全国消費実態調査はまだ公表されていないので、直近の値としてもちょっと前になるが、所得格差が広がっているのは事実のようだ。

また、相対的貧困率(全国民の等価可処分所得の中央値の半分に満たない国民の割合)も拡大している。厚生労働省の発表資料では、1997年では14.6%であったのが、2006年には15.7%になっている。相対的貧困率は、OECDのレポートによる国際比較でも日本はOECD諸国で5番目と格差が高い事を示唆している。

さらに、所得格差として重要なのは、平均所得は低下している点だ。以下の図は1世帯当たり平均所得金額の年次推移だが、90年代と比較して、平均所得が低下しているのを確認することができる(厚生労働省)。つまり、事業等に成功した高所得者が続出して所得格差が開いているわけではなく、中所得者以下の所得が年々と低下しているのが、現在の所得格差の特徴だ。

2. 地域格差

みずほ政策インサイトによると、確かに、一人あたり都道府県民所得や、有効求人倍率に地域間の差はある。しかし、毎年の変化があるものの、大きくその差が開く傾向は無い。地域格差は確かに存在するが、近年に特に大きな問題が新たに発生しているようには見えない。ただし南関東などの都市圏が人口増加傾向で、地方は減少傾向にある傾向が続いているので、経済規模での差が年々開いている傾向は変わらない。

3. 世代間格差

経済成長をしていると、若い世代は、年寄りの世代よりも生涯所得が大きくなる。そういう面では経済成長率が年々と低下しているので、本質的な世代間格差は縮まっていると言える。

しかし、公的年金のバランスが良くないので、若年層では支払う保険料よりも受け取る給付金額が少ない一方で、老齢層では支払う保険料よりも受け取る給付金額が多くなっている。この、若者から老人への所得移転が度を行き過ぎていて、生涯の可処分所得が逆転しているのが、現在の日本の世代間格差だ。

右は社会実情データ図録にアーカイブされていた、東京新聞に掲載されていた、鈴木氏の作成した図表だそうだが、昭和60年以降に生まれた人々は年金を含む社会保障制度からマイナスの恩恵を受けていることが分かる。かなりの惨状だが過去の経済白書にもほぼ同様の図表が掲載されており、政府認識とも一致する。

なお、鈴木氏の計算と厚生労働省の試算に食い違いがあるように感じるかも知れないが、鈴木氏の計算では金利やインフレ、経済成長の影響も加味されているため、差が生じている。保険料を払ってから30年もたったら、お金の価値も変わっているのだ。

4. 何が問題なのか?

これらの格差を問題として見る場合、その論点は二つある。格差が道義的に社会保障に過不足が生じていないかという論点と、格差が社会的厚生(=国全体の生産量)を低くしているのではないかという論点だ。

前者に関しては、多少は関心が高い。小泉政権のときに、十分ではないが世代間格差は縮小するように施策がとられた。2004年から派遣労働の規制緩和が行われたせいか所得格差が問題になったが、麻生政権のときは主に地域格差を問題として捉えていたようだ。年金問題の専門家は世代間格差を問題視しているように思える。論者によっては「若者のやる気を削ぐ」と形容しているが、恐らくこれも道義的な視点であると思われる。

後者に関しては、あまり注目されて来てはいない。小泉・竹中路線と言われる、新自由主義的な経済政策では、富裕層の発生は経済成長のために必要な事象であり、その結果としての所得格差は当然であるからだ。しかしながら、所得税は段階的に緩和されており(財務省)、累進性が低い税制になって来ているので、消費性向の低い富裕層に可処分所得が集中しているという批判もされつつあるように感じる。

本稿では、それぞれの格差の原因については言及はしないが、政策的に議論をする場合、どの格差の問題を、どういう論点で議論するかが重要なことは述べておきたい。この点を曖昧にしておくと、全く議論が噛み合わなくなるのは明らかで、問題点を整理することが建設的な議論の第一歩であるのは明確だ。

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